大井川通信

大井川あたりの事ども

給湯器に祈る男

子育ての終わりごろは、経済的にかなり苦しかった。生活費やもろもろの必要経費、子どもの学費ですでに赤字になってしまうから、それ以外の不慮の出費にはなかなか対応できない。必要な家の補修(壁の塗り替えなど)も伸ばし伸ばしになっていた。

それでも冷蔵庫が壊れたり、ガスコンロが使えなくなったりすれば、すぐに対応せざるをえない。そんな中、気になっていたのが風呂釜(給湯器)の寿命だった。

すでに20年近く使っているから、いつ壊れてもおかしくない。しかし給湯器の値段が設備の中でも高く、30万くらいかかることは知っていた。だから、湯船につかって、風呂釜のゴウゴウという音を聞きながら、何とか無事に働き続けてくださいと、祈るような気持ちでいたことを思い出す。

しかし、その後も我が家の給湯器は一度も故障することなく動き続け、そしてとうとう今月になって、突然お湯が出なくなってしまった。ただその予兆はあった。一か月くらい前から、わずかながら水もれをするようになっていたのだ。

ガス会社の人に相談すると、給湯器の寿命は10年から15年くらいで、我が家の給湯器のように25年間ももつことはまれだという。とても孝行息子だったのだ。

おそらく僕の祈りが通じて、それならお前の定年まではなんとかがんばってやろうと決意してくれたに違いない。そして定年後すぐに寿命がつきたのだ。

なるほど子育ても終わり、我が家にも経済的にゆとりができて、給湯器の交換くらいは支障がなくなっている。ただし、このタイミングは・・・

今はコロナ禍による部品の供給不足で、特に半年くらい前から給湯器の品薄が続いていて、注文しても数か月待ちの状態だという。孝行息子なのはいいが、もう一年くらい前に壊れてくれていたら、すぐに交換できていたことになる。

しかし、僕の定年までがんばってくれた給湯器にとてもそんなことを言うわけにはいかない。給湯器さん、ありがとう。