大井川通信

大井川あたりの事ども

大寒波のカンタロウ

日本列島に大寒波が襲来するということで、朝から不穏な空模様になった。しんから冷え込んで、寒風が吹き荒れている。お昼前からは吹雪くようになり、突風に雪が舞っている。まるで北国だ。これでは電車が止まるかもしれないと、午後から仕事を切り上げることにした。

公園内の道を急いでいると、小高い林の中にカラスの姿が見える。初めてカンタロウに出会った場所だけれども、そこでは近ごろまったく見かけなくなっていた。念のために雪が薄く積もった斜面を上がって林に入ると、一羽逃げずに残ったのは、どうやらカンタロウのようだった。

カンタロウは、吹雪で揺れる枝にしっかりつかまって、枝の真下まで来た僕を見下ろしている。僕は雪をかぶりながら、ぎこちない博多弁で必死にカンタロウに呼びかける。「カンちゃん、カンちゃん、寒くないと? お腹すいてないと?」

カンタロウが普通にカアカアと鳴くので、それに合わせて何回か鳴きまねをしてみた。すると、カンタロウは、のどを小さく鳴らすようにして、か細くうがいのような声を出す。「ゴロゴロ、ゴロゴロ、ゴロゴロ」

これは明らかに真下の僕を意識したアピールだ。僕もうれしくなって、同じ回数のゴロゴロで復唱する。このやり取りを何回かしていると、近くの林から、急に力強いカラスの鳴き声があがった。カンタロウは急に目が覚めたかのように、力強い声で応じて、仲間のもとに飛び去って行った。これであの小さな鳴き声が仲間のためでなく、目の前の人間のためのものだったことがよけいはっきりしたように思う。

寒波の中でも、この調子ならカンタロウも大丈夫だろう。僕は少し安心して林を出て駅にむかった。