大井川通信

大井川あたりの事ども

おしりを引きずる九太郎

居間と廊下の間には、ガラスをはめた木製のドアがある。ドアが閉まっているときには、廊下側でボンちゃんが立ち上がって、こちらむきに前足でガラスをこする仕草をする。短い前足を上下させてガラスを拭いているようにも見えるし、ドアを開けてくれとアピールをしているようにも見える。

ただ、キッチン側の扉を通れば居間には入れるのだから、目的なくただ遊んでいるだけなのだと思う。爪を立てていないようだから、肉球がガラスに触れる感触を楽しんでいるのかもしれない。ボンちゃんほど短足ではなく、立つのが苦手な九太郎がこの遊びをするのは見たことがない。

ある時、ぼんやり居間からドアの開いた廊下をながめていたら、九太郎が右から左へと横切るのを目撃した。それがとても不思議な歩き方だからビクッとした。足を怪我してしまったのではないかと思って。

足を開いてお尻を地面つけたまま、前足だけで前に進んでいたのだ。今ではほとんど死語だろうが「いざる」ような姿だ。

廊下の奥には猫のトイレがある。以前から、妻が、九太郎がトイレをしたあと、お尻をカーペットで拭くから汚くてしようがないと文句をいうのを思い出した。九ちゃんもまさか意図的にそんなことはしないだろう、たまたまそんなふうに見えただけなんだろうと思っていた。

しかし、あの奇妙な姿で少なくとも1メートルは移動していたのだから、意図的でなくでなんだろう。まちがいなくお尻を床にこすりつけて拭いているのだ。妻が汚がるのも無理はない。

ボンちゃんは肉球をガラスで拭き、九ちゃんはお尻を床で拭く。猫もいろいろ。