電柱のマニアがいるというのは、ずいぶん前から聞いていた気がする。給水塔だとか火の見やぐらだとかマンホールだとかのマニアとともに、街の見慣れた構築物のマニアとしては老舗の部類に入るだろう。
電柱は、幼児の行動半径のなかにも必ずあるものだから、僕にも昔からなじみ深い。郷愁を誘う。ガチャガチャの特撮ものの再現模型で昭和の町を表現するときの必須アイテムでもある。
500円のガチャガチャで電柱の精密な模型があるのでやってみたら、中身はプラモデルみたいな部品がぎっしり詰まっている。不器用な僕は食指が動かず、しばらくほったらかしにしていた。しかしガチャガチャごときにいつまでも尻込みしているわけにはいかない。
覚悟を決めて組み立てたら、高さが30センチ以上もある立派な電柱ができあがった。途中にはバケツのような変圧器がせり出しているし、電線をつなげる碍子(がいし)も正確に再現されている。不安定だが立たせることもできる。街中にはこれほど立派な電柱はめったにないが、あらためて実物の電柱の形状に興味をもつきっかけになった。
ファミレスのジョイフルの入り口の脇にもガチャガチャの販売機があるが、最近そこでジョイフルの店の看板のミニチュアが売られているのに気づいた。幾種類かがあるが、大きく分けて昔ながらのどぎつい黄色の看板と、新しい店舗のおしゃれな看板のバージョンがある。明かりも付けられるし、電池も交換式だ。
これは反則だと思う。本物の看板のある本物の店舗の中で、入れ子構造というか、マトリョーシカみたいにミニチュアの看板が売られているというのはそれだけで面白いし、なじみの利用客にとってはその模型から、ジョイフルを舞台にした様々な思い出とストーリーを喚起することができる。
僕は3回やって、運よく3回とも違うタイプを当てることができた。特に以前からのどぎつい看板は、僕の記憶により深く浸透しているもので、これが手に入ったのはうれしかった。ただ、全部で5種類。コンプリートにはあと2つ。
とはいえ一回400円は、ジョイフルならモーニング一回分の料金で、僕なら朝の静かな勉強の時間としても活用できる経費だ。何度も同じ製品を当ててその金額を棒に振ることは、貧乏性の僕にはとてもできない。
ここは勇気ある撤退、だろう。