大井川通信

大井川あたりの事ども

『徳川家康が総理大臣になったら』 眞邊明人 2021

ビジネス小説と銘打っていて、本の作りが一見して文芸書とちがう。見出しの活字がやたらに大きかったり、大味の挿絵が見開きでのっていたりする。著者は、専門の作家ではなく、ビジネス研修講師をメインに、芝居の脚本、演出の担当もするという人だ。

まず僕が手に取らないタイプの本だが、先月から始めた地域の読書会で次の課題図書に指名されたために、古書で400円弱で手に入れる。会のメンバーもいろいろなタイプの本を扱うことで、読書会に習熟していくことになると思う。僕も、今は何でもござれ、という心境だ。

著者はどうやらビジネスの場面でのリーダーシップの説明に、歴史上の偉人を例にたとえて好評だったらしい。おそらく、そこからコロナ禍の日本で、AIとホログラフの最先端技術でよみがえった武将たち(徳川家康豊臣秀吉ら)が最強内閣を組んで難局を任せられたらどうなるか、という設定を思いついたのだろう。

意外なことに、エンタメ小説として、そこそこ面白いものだった。官房長官坂本竜馬と現代の女子アナとの恋物語があったり、とある武将の策謀によって日米開戦の危機がせまったり。

なにより、江戸時代の繁栄を築いた徳永家康の見識と、現代社会に対する批評はなかなか聞かせるものがあった。江戸時代は、我々の足元にあって今でもその基礎をなしている時代だ。過去は今に流れ込んで現在に生きている、といった歴史哲学も語られて、小説としてなかなか重厚な趣きもある。

そうそう、事前課題を早いうちに考えておかないと。

 

・登場人物の中で特に気になったキャラクターとその理由を教えてください。

※(例)徳川家康古墳時代から栄えた地元(宗像)を歩いていても、普通に残っている石碑の年号は元禄時代から。身近なため池も築造は17世紀半ば以降。この国の基礎は江戸時代に作られたことを実感。その繁栄の基礎を作った政治哲学は聞きごたえがある。

 

・最強内閣が実施した政策の中で、実際に実現してほしいものと、そうではないものを一つずつあげて、その理由を説明してください。

※(例)有効:カリスマ性(人気)+能力のある政治家を発掘する仕組み /「国営の大農場計画」今のままでは不安しかない。食の問題には大ナタが必要と思う。無効:「歌舞伎町再編計画」 国家プロジェクトとしては効果が薄いと思う。

 

・この小説とは別のラストを考えてみて下さい。

※(例)圧倒的支持を受ける徳川家康の長期政権が続き、各国も競って偉人たちを復活させて政治を任せるが、あらゆる偉人のパターンを解析した最強AI政治家の登場によって、世界が意のままにされてしまう。

 

・この小説の技術で復活させてたい人物はいますか。またその人物と何をしたいですか。歴史的人物でもそうでなくてもOKです。

※父親:どういう人だったかよくわからないままに別れたから。今なら話して聞き出せる気がする。

親鸞:尊敬(信仰)している人が多いが、その人たちは昔の仏教書ばかり読んでる。今親鸞がいて、現代の知識、学問、技術を知ったら、もっと違う勉強をするのではないか。いっしょに勉強してみたい。

 

ところで、AIとホログラフ技術で歴史上の偉人は復活させるとは、どういうことだろうか?仮にある人物に関する膨大な情報があったとしても、それをもとに作る人格は、ある人物とそっくりなもう一人の人物にすぎないだろう。それに加えて、本人自らその人物であると(生まれ変わりであると)思い込む必要と、周囲がその人物として遇する必要がある。この小説では、すべての条件がかなっている。

これは現代の役者が芝居を演じる場合に、自分が演じる人物の資料を読み込み自分のものにすると同時に、舞台上では自分がその人物になりきる(憑依する)ことが必要なのと同様であるような気がする。

もっとも、この論点は「哲学的」すぎて読書会の話題にはできないだろう。