大井川通信

大井川あたりの事ども

本を速攻で処分する

定年前の二年間、ある事務所の所長を務めたとき、自分には読書くらいしか武器はないのだからと、仕事の関連本をひたすら読んだ時期がある。それを自分の執務室の書棚に読了順に端から並べていった。

読了本を背景にして仕事をするのは、自信にもなったし、多少他者へのアピール(もしくは威圧)になったと思う。それだけでなく、読了本の背表紙をざっと眺めることで、自分の知識の在庫を確認して、そこから様々なアイデアを得るという効能もあった。

退職すると、その読了本は何個かの段ボール箱に収められて自宅の物置に片付けられた。なかには仕事抜きに重要な本もあるし、仕事を離れた以上必要なくなった本もある。その仕分けも課題だった。

今の職場の若手で、普段からよく雑談する人がいる。話の飲み込みも早いし、やる気ももあれば関心も広い。僕の若いころよりはるかに優秀だ。カブトムシやクワガタの幼虫を育てて、大学の研究室に顔を出したりしながら研究しているという多彩さも気に入った。その彼が、今度育児休業をとるという。それなら多少時間的余裕があるだろう。

それで仕事関連本で若い人にも役立ちそうなものを選んで、プレゼントしようと思った。仕事関連本で内容的に価値が高いものは、やはり惜しくて処分できない。後進の役に立つと思えば、手放す理由がつくというものだ。

そうなると、それらより価値の低い本を抱えている理由もなくなる。こちらは廃棄処分にすることにした。付箋や書き込みが多く、古書店に売ることもできない。

これでおよそ段ボール二箱分の書籍を、ごく短時間の作業で処分することができた。これは僕には夢のようなハイペースだ。もともと本好きで貧乏根性があるから、いくら見直しても処分の決断を下せないのがいつものことだからだ。