大井川通信

大井川あたりの事ども

顕微鏡と望遠鏡

「他の善と自の悪とは顕微鏡にてこれを見よ。そのいかに大なるかを感ずべし。他の悪と自の善とは望遠鏡にてこれを見よ。そのいかに小なるかを感ずべし。」(引用者:表記を読みやすく変更。以下同様)

 

久しぶりに『清澤満之全集』を取り出して、第二巻「他力門哲学」をぱらぱらとめくってみる。面白い。引用は、「有限無限録」の91個の断章のうち、56番目の断章から。

僕もいくつかは全集や著作集の類を持っているが、たいていお飾りになってしまっているし、今後ページを開くこともないだろう。例えば『廣松渉著作集』がそう。もし読み返すとしても、膨大な単行本があるからそれで十分間に合う。

しかし、清澤満之は、単行本が少ししかないから、全集をひらくと未知の文章に出会えるし、単刀直入な断片や、ユニークな図表があふれていて刺激的だ。

またどんなに断片的であっても、単なる思いつきではなく、根底の確信から支えられていて、体系的な論理の糸に結び付けられているというのが清澤らしい。

その根底の確信というのは、「宗教は有限の無限に対する心情なり」(54番目の断章)という宗教観だ。そこから以下のような、精密でリズミカルな思索が展開する。

 

「各自の使用する器械を絶対無限の付与する用具と観念すべし」「各自の運用する材料を絶対無限の給与する物品と観念すべし」「各自の往来する所を絶対無限の領地と観念すべし」「各自が対する人士を絶対無限の遣わす使節と観念すべし」「各自が獲得する所を絶対無限の恩賜する恵与と観念すべし」

 

全集といっても9巻しかない。神棚にまつっておくのではなく、実用の書物として手に取っていきたい。