大井川通信

大井川あたりの事ども

『現代日本の思想』 久野収・鶴見俊輔 1956

学生の頃から知っていた本。その頃すでに四半世紀前の出版だったし、最新の現代思想ブームの渦中だったから、人気思想家の名前が出てこないひどく古臭い本だと思っていた。

しかし、今読み返すと、とても新鮮で役に立つ内容だった。

一つには、敗戦からわずか10年という時点の執筆で、混乱と激動の時代の証言として貴重だということ。過去の思想の分類ではなく、あくまで現在進行形のドキュメントなのだ。

だからこそ、ということなのだろうが、著名な思想家をピックアップするよりも、グループや党派、潮流や世相などのいわば「思想集団」に焦点を当てているのが新鮮だ。この点が若気の至りの僕には思想書として物足りなかった点だろう。

欧米由来の横文字(カタカナ)の思想を、実際に日本人の生活や実践の場面で力をもった運動や潮流と結び付けて理解しようする観点が一貫していて、それは今でも僕たちが見失いがちなポイントとして重要なものだ。

さらにその思想集団の取り上げ方(くくり方)がユニークで刺激的だ。「日本の唯物論」を共産党(当時の知識人に圧倒的な影響を持ちえた理由は興味深い)で代表させたり、「日本の超国家主義」を北一輝昭和維新の思想を軸に見るのは一般的だろう。

しかし、「日本の観念論」を武者小路らの白樺派で説明し、さらには「日本のプラグマティズム」を生活綴り方運動において、「日本の実存主義」を戦後の世相においてとらえる視線は今でも新鮮で示唆的だ。鶴見俊輔の筆にしては、マルクス主義進歩主義の影響が強いような気がするが、それすら時代の生々しい証言といえるかもしれない。

生活綴り方運動については、無着成恭豊田正子の読書を通じて最近も考えてきたところだったので、とりわけ興味深かった。