大井川通信

大井川あたりの事ども

ガソリンスタンドにおける不器用

家族と宿泊でドライブに行くので、久しぶりに洗車機で車を洗おうと、洗車のときに何度も使っているスタンドに入る。

洗車カードを機械に入れると、思ったより残高がある。ニヤリ。余裕でいろいろなセッティングのボタンを押し終わって、いざ指示通りに洗車機に向かおうとして、ふと不安になる。

洗車に支障の出る装備品を指定すると、その部分の洗浄を機械が回避する仕組みになっているのだが、今回はドアミラーの指定をしなかったのだ。今までは、ドアミラーの指定をしていたような気がする。しかしよく読むと、たためるドアミラーなら除外しなくていいと書いてある。洗い残しはないほうがいい。

ところが、最後にもう一度注意書きを読むと、ウインカー付きのドアミラーは指定しなければいけない、とも書いてある。そんなことはまるで意識していなかったが、あらためて見るとドアミラーには細長いライトのようなスリットがある。これ光るんだっけ。

こういう時の僕は冷静さを失って、もうこれはウインカーだ、だから除外の指定をし直さないといけないと一直線に思い込んでしまう。しかし、前へ進めのコールを始めた洗車機をリセットすることはできない。

僕は後悔の念にさいなまれながら、ひろいスタンドを走って、バイトらしき女子に声をかける。電話で問い合わせてくれたが、回答は「手で折りたためないのですか」というもの。つまり、たためればいいということだ。

この騒ぎはなんだったんだろうと思いつつ、無事洗車を終わり、場所をかえて水滴を拭き上げたり、室内のごみを吸引したりして気持ちを立て直す。

そうだ、タイヤの空気圧を調整しなければ。以前一度ここで自分でやったことがあるから大丈夫だろう。ただし、心なしか設置の機械の形状が変わっているような気もする。

車体に表示された前後のタイヤの空気圧を確認して、その数字を機械に入力する。よしよし。それから四輪に空気を注入するのだが、僕ははじめ、ブザーがなれば完了だと思って注入をやめていた。しかし、機械の説明書きをよく見ると、OKサインが出ると書いてある。それでもう一度入れなおしてみたが、設定した数字の表示のままでOKサインにはらならい。

また別の女子店員にたずねると、めんどくさそうに、ブザーが三回なったらいいんですよ、と答える。そんなことは書いてありませんが、と心の中で文句をいう。

もう一度入れなおして、4輪とも三回のブザーが鳴ることを確認してようやく終了。4輪の4回のチェックで済むところ、長いチューブを引きずりながら、3倍の12回のチェックをしてしまったことになる。

いつの間にか並んでいる2台の車は、僕のどんくさい作業をいらいらしながら待っていたのだろう。

僕は、今までこうした不器用な失敗を数限りなく繰り返してきたような気がする。クリアしてしまえばどうってことないが、その渦中ではとてつもない不安に襲われて、自己無能感にさらされる。

思い返せば、子どものときからだ。機械がらみが多い気もするが、モノを作ったり操作したりすること、さらにいえば身体を操作するということの基本的な部分でつたなく、不器用なのだろう。言葉をつかう、他人とコミュニケーションをとる、という部分にもその影響は及んでいる。得意なのは、単線的な作業である試験勉強みたいなものだけだ。

だから、できないことの不安に襲われると、またこれがやってきたのか、という既視感が強い。老化によってそんな機会はさらに増えていくだろうが、そのことの耐性は人よりあると思いたい。