大井川通信

大井川あたりの事ども

『日本の建築家解剖図鑑』 二村悟 2020

エクスナレッジは、素人の建築好きが手に取れるようなガイドブックを安価で提供してくれるありがたい出版社だ。同社出版の本書は、辰野金吾から黒川紀章までの63人建築家を見開き二ページで紹介している。

まずその建築家のキャッチコピーと似顔絵と業績の紹介がある。代表作品は二つ選ばれて、絵図でもってわかりやすく解説される。それに略年譜と人物関係図がついているから、かなりの情報量だがながめているだけでも面白い。

建築家は故人に限定しているようだが、相当工夫された人選+解説であることは、僕の知識の範囲内でも了解できるものだ。まず普通の教科書では取り上げられないような人が選ばれているからだ。

たとえば、徳永庸(とくながいさお  1887-1965)。津屋崎の安部文範さんの玉乃井プロジェクトの関連で、僕が個人的に調べた建築家だ。福岡での生家跡や東京国立の住居跡を訪ね、建築作品も見て歩いた。図書館で私家版の追想録を借りて調べた。その経験からも「卓越した図面指導者」というコピーや紹介内容は的確なものだと思う。

次に、大岡実(おおおかみのる  1900-1987)。僕が中学時代に出会った古建築鑑賞のバイブル『日本の建築』の著者で、建築史の研究者として知られているが、建築家として取り上げられることは稀ではないのではないのか。「火災と戦い鉄筋コンクリート造で伝統表現を試みた」というコピーで、法隆寺金堂火災の責任者だったという事実にまで言及されている。これは単なるゴシップではなく、建築家としての生き方を決めた原点を紹介するものだ。

その他、浦部鎮太郎(うらべしずたろう  1887-1965)は倉敷を中心に活躍した建築家だが、近年まとめて作品を見る機会があったので、解説はありがたかった。全体的に一人二作品の紹介だから総数は多くはないはずだが、僕が見たり利用したりした建築作品の紹介が目立ち、本書にいっそう親しみがわく。

こうした図画や写真の多い解説本は、さっとながめるだけで積読してしまうことが多い。しかし今回は短時間で全体に目を通してみて、楽しく学ぶことが多かった。単行本を読む苦労に比べれば、学びのコストパフォーマンスはかなり高い。心しよう。