大井川通信

大井川あたりの事ども

遠山を眺望する

東京に帰省すると、この土地にとって富士山(3776m)がいかに大切な山であるかわかる。子ども時代にそれに気づかなかったのは、高度成長期以降の公害の影響もあるのではないか、と近頃思い至った。規制前の工場の煤煙や車の排気ガスが空を汚し、眺望を妨げていたのは間違いないだろう。

ところで、実家のあった国立市から富士山までの距離は、およそ75㎞だ。多摩地区からは富士の手前に丹沢山系の山々が並んで見えるが、その中で有名な大山(1252m)までの距離を測ると34㎞ある。

九州福岡に戻ってから、同じように遠くの山を眺望できる場所はないか考えてみた。東京から富士山を眺望するようなスケール感と比較できるものがほしかったのだ。もちろん九州には関東平野のように広大な平野はないし、2000mをこす高い山もない。

思い浮かぶのは、福岡では第三位の高さを誇る英彦山(1999m)だ。ボコボコした山塊に独立した岩山が並ぶ異様な山容は、遠くからでもよく目立つが、僕が最も遠方からその姿を確認したのは、鹿児島本線遠賀川の鉄橋にかかるあたりからだった。英彦山遠賀川の源流の一つだから、川幅の広い河口近くからは眺望を妨げるものがない。

修験の霊場として知られる英彦山はよく整備されて、800m付近までは車で登れるし、そこから実際に巨大な岩山の並びを真横に見たこともあるので、実際の様子を想像しながら遠望できる。地図で調べると鉄橋からは47㎞もあって、富士山には及ばないものの、大山よりも遠い距離にある。

ちなみに、さつき松原から世界遺産沖ノ島までの距離は57㎞で、わずか243mの高さの小島を水平線ぎりぎりの位置に見つけることの難しさがわかろうというものだ。僕も肉眼ではっきり見たことは数回しかない。