大井川通信

大井川あたりの事ども

ホテルで部屋を間違える

ホテルの宿泊で、またまた恥ずかしい失敗をしてしまった。

格安のビジネスホテルのフロントで、カードキーと部屋番号の描かれた紙片をもらう。フロントで聞いた「701号」を記憶していたので、その部屋の前に行くと、ストッパーが挟まれて部屋のドアが閉まっていない。だからカードキーを使わずに中に入って、荷物を降ろし、ベッドの上に腰かけてテレビを見ているときだった。

ドアをガチャガチャ開ける音がして、人の声が聞こえてくる。誰かが部屋に入ろうとしているのだ。とっさにはどちらが間違えているか判断がつかない場面だが、まず自分から頭を下げるのが失敗だらけの人生で身に着いた処世術だ。

私がまちがえましたか、とすまなそうな声を出して、ドアまで行くと、案の定、僕の勘違いだった。正解は「710号」。あわてて荷物をまとめて、よく謝ってから自分の部屋へ。今度はドアが閉まっているから、カードキーをかざして部屋に入る。

そもそもドアさえしまっていたら自分の鍵では開かないから、そこで自分の間違いに気づいて、紙片で部屋番号を確認したはずだ。冷静になれば、ホテル側にも非があることが指摘もできるが、その時はそれどころではない。自分の部屋に移っても、ひたすら恐縮していた。

701号の利用客は父と息子のようだから、ダブルの部屋だったのだ。浴衣もカップラーメンも二つあることを疑問に思うべきだった。僕の入室後、5分もしないうちに来てくれたからよかったが、もし僕が部屋をさんざん汚していた後だったなら、厄介な問題が生じたかもしれない。危ないところだった。

そこへ内線電話のベルが。フロントに苦情が行って、お叱りの電話ではないか。僕があわてて受話器をとると、先ほどの親子の息子の方からだった。テレビのリモコンを間違えて持ってきてはいないか、とのこと。

確認すると、手提げの中にリモコンが突っ込まれていた。あとから考えると、彼らが入室しようとしたときにテレビがついていたわけだから、リモコンが最初からないわけではない。あのおっちょこちょいがリモコンを持っていったと推理できたのだろう。

そのときは、これで彼らの堪忍袋の緒が切れることが恐ろしかった。僕は財布から千円札を二枚取り出すと、あわてて701号にむかった。

ノックしてでてきた息子さんに、重ね重ね申し訳ない。せっかくの旅行なのに嫌な思いをさせてしまって・・・これでビールでも飲んでください、と言ってリモコンと二千円を渡した。息子さんは少しためらったようだが、無理に押し付けてこちらからドアを閉めた。

一人一泊5千円の格安ビジネスホテルでの迷惑料としては、これで十分だろう。実質的な損害がないのだから、僕が逆の立場ならば多少得をしたと思うかもしれない。僕は自分の失敗と負い目をチャラにできた気がして、ようやく落ち着くことができた。

ただこれで、と考える。ネットで宿泊料が1000円でも安いビジネスホテルを探した努力は無駄になってしまったなと。