大井川通信

大井川あたりの事ども

ラーメン屋の味

僕は、カービィのように食べ物を何でもおいしく吸い込んでしまう人間なので、たいていの食べ物の美味しいか不味いかはあまり気にならない。

うどんとか、カレーとかの味に、そんなに大きな差があるとは思えない。とびきり美味しいとおもうこともあるが、たぶん空腹とか体調の関係が大きいだろう。

そんなことを考えていて、ふとラーメンについては、事情が違うことに気づいた。ラーメンには、自分の好みではっきり美味しいと感じるものがある反面、たいていのラーメンはそこまで美味しくない。はっきり不味いと思える店も多い。

職場に、学生時代にアルバイトながらチェーン店のラーメン屋の店長までしていた人がいる。あるとき、きびしく鍛えてくれたバイト先の店長が、店のカギを渡しながら、この店をお前に任せる、と言って、翌日から店にでてこなくなったそうだ。どうやらレストランの店長にキャリアアップしたらしい。

このラーメンの専門家といえる同僚に、僕の長年の疑問をぶつけてみた。

街にふつうにあるラーメン屋は、たいてい美味しくない。美味しかったら、このネットの口コミの時代ならたちどころに人気店になって行列ができるだろう。お昼どきにもさほど混まないような、ごく普通の店のラーメンは可もなく不可もなく、つまりは不味いのだ。

どうせ毎日作っているのに、なぜそれを美味しくする努力をしないのだろう。美味しくすれば確実にお客が増えるのに。これが僕には謎だった。

元店長の答えは明快だ。彼によると、毎日同じものを作って、毎日味見していると、それが美味しいのか不味いのか、自分でもなんだかわからなくなってしまうのだそうだ。これはなんともリアルな話である。さらに、その味を好んで食べに来てくれる常連がいれば、味を変えるわけにはいかなくなる。

ところで、元店長は、僕が地元で一番好きな店の味を、あそこは旨いと認めてくれた。ほっと胸をなでおろす。