大井川通信

大井川あたりの事ども

ひろちゃんの旅立ち

少し前に娘さんから、ひろちゃん(吉田弘二さん)の容態が思わしくないとのメールを受ける。今年になってから、コロナ禍で訪問を遠慮していたのだが、この数か月でだいぶ体調が悪くなったそうだ。それでこのところ何回かお見舞いにうかがって、先週の日曜日には、部屋にあがって少し話をすることができた。

ひろちゃんは、ほとんど食べ物を受けつけなくなって痩せていたけれども、午前中は一人で遠方まで車で出かけていたという。山登りの好きなひろちゃんは、高山のミヤマキリシマを見たがっていた。人と話した方が元気になるというので、僕もこれからは週に一回は顔をだそうと思った。

それが、金曜日の午後、ひろちゃんが亡くなったという連絡を受けたのだ。一昨日には兄弟と温泉に行っていたし、その日も家族が席を立っている間にすっと息を引き取ったのだという。とても残念だが、ひろちゃんらしいいさぎよい旅立ちだった。

今朝は、マスマルにある自宅からの出棺に立ち会った。見送ってから、久しぶりにヒラトモ様にお参りすることにする。6年前にヒラトモ様にいく林道わきの農園で奥さんに声をかけたのが、そもそも知り合うきっかけだったのだ。

昔の里人の考えでは、死後魂は、里山の上に集うものらしい。だとしたら、ひろちゃんの魂も、山頂のヒラトモ様のあたりにやってくるはずだ。僕は、ヒラトモ様によろしくお願いしますと頼んでみた。無神論者のひろちゃんも、毎日の暮らしを見下ろしていたヒラトモ様には親しみを感じていたはずだ。

帰り道は、目印のない雑木林の急な斜面を降りる。もう何十回とお参りに来ていても、一度も迷ったことはない。しかし、今日はまったく見慣れない林に降りてしまい、もう一度もどっても、見覚えのある道すらみつからず途方に暮れてしまった。なんとか抜け出したものの、どこをどう間違えたのか見当もつかない。

僕の願掛けが、ヒラトモ様の神域の力を目覚めさせたのかもしれないと思った。