ビルの部屋のような空間なのだが、屋内プールみたいに深く水がはってある。その中で自由に泳ぎ回る魚がいるのだが、よく見たら白いクジラだった。
僕が手ですくい上げると、クジラはまるでイルカのショーのように空中に躍り出て、そのまま水面に落ちた。全長数十メートルあるクジラが、どうして僕の意のままになるのかわからないし、それが特別に面白かったわけでもない。
ただ、何度も何度もくりかえし水面に身体をたたきつけているうちに、あきらかにクジラは衰弱していくようだった。それでも僕は、クジラを水面高くすくい上げるのをやめなかった。
やがて、クジラは全く動かなくなり、いつのまにか床の上に長々と寝そべっている。クジラは、シロナガスクジラのようだ。世界最大の哺乳類シロナガスクジラは、たしか絶滅に瀕して、生息数も少ないはずだ。貴重な一頭を殺してしまったことに、急に罪悪感がめばえた。と同時に、これは何かの罪に問われるのではと思って、恐くなった。