大井川通信

大井川あたりの事ども

ムジナが町と山野をうろつき回る(貉の生態研究①)

 【歩行の開始】

地元で歩き始めたばかりのとき、地域を一方的に観察する側に立つのはおかしい、という批判を受けた。それは観察対象からの収奪につながり、その土地に生きる人たちに受け入れられることはないだろうと。

その時は、自宅から歩いて行って帰るという原則を守ることで、つまり、徒歩の生活圏を舞台とすることで、一方向的な関係(見る・見られる/奪う・奪われる)は避けられる、という期待をもっていたものの、その批判に上手く答えられなかった。まだ、何事も始まっていなかったから。

 

※自宅の周辺を、「大井川歩き」と称して、自覚的に歩き始めたのは2014年の1月。自宅から歩いて行って、歩いて帰ってこられる範囲内の土地を、自分が「責任」をもつフィールドにしようと考えた。大小の川の流れを意識して歩く、とか、歩きながら偶然声をかけた人から聞き取りをする、とかのルールも生まれる。地形や鳥や虫や植物などの自然も、古代から近世、明治、戦中戦後にいたる歴史も、現代の人々の営みもすべてが、自分の足で踏みしめる小さな土地に関わる限りは、僕の「責任」の範ちゅうだ。

自分を貉(ムジナ)になぞらえた、この短文のシリーズは、二年前に、小さな勉強会で「大井川プロジェクト、あるいは貉の生態研究」というタイトルで報告したもの。今の視点を補充しながら、ふりかえってみたい。