大井川通信

大井川あたりの事ども

『夕陽に赤い帆』 清水哲男詩集 1994

ネットで、好きな詩人清水昶の箱入りの詩集を買った。40年近く前の詩集だけれども、ほとんど読んだ形跡がないほど真新しい本が届いて、歓喜した。かつて亡くなった知り合いの古本屋さんで、買おうとして他の客に先を越されて悔しい思いをした本だ。

駅ビルで大きな古本市があって、お兄さんの清水哲男の詩集が出ていたので、買ってみた。若いころのお洒落で達者な詩は好きだったが、これは50代半ばでの詩集で、文学賞も受けたようだから期待がもてる。

しかし24篇中、ひっかかるところがあって読み返そうと付せんをはった詩は6編。打率は2割5分。多くのベテランの現代詩人と同様の残念な結果だった。僕に現代詩を享受する素養が欠けているのは間違いない。しかしこれでは、専門外の平均的な読者をもつことはできないだろう。このあたり、現代詩というジャンルの構造的な問題という気がする。

巻頭の、素直につづられた次の詩が、かえって心に残ったりする。けれど詩精神は、ずいぶんと弱々しい。

 

真新しいピアノが団地に運び込まれている/あのピアノが運び出されるのは何年後だろうか/不要になったり役に立たなくなったりして/家の中に入った物はいつか必ず出て来る/廃品回収業者がそんなことを話してくれた/となると私も毎日家の中に入っているうちに/いつか二度と戻らぬ形で出てくるわけだ/不要になったり役にたたなくなったりして  (「いつか必ず」)