大井川通信

大井川あたりの事ども

願わくは花の下にて・・・

例年、サクラの開花はそれなりに気になっていた。満開のサクラには心を奪われたし、それが散るのを惜しむ気持ちもあった。

サクラの開花と前後して、ツバメたちが南国から海を越えてやってくる。彼らの苦労を思いながら、初めの一羽の姿を見るのを心待ちにしていた。冬鳥への別れと、夏鳥への出会いが交錯して、鳥好きには気ぜわしい季節なのだ。

ところが。今年は、サクラの開花もツバメの飛来も、ほとんど意識することなくいつのまにか起きてしまって、すでに日常の風景の中に埋没している。

いうまでもなく、新型コロナウィルスによるパンデミックという事態と自分の身辺の変化に気を取られていたためだ。

恐らく2020年は、僕の人生の中で、1974年とか、1995年とかと同レベルの、世界の変動と自分の変化とが関連した象徴的な年号になる予感がする。僕が経験できる最後の大きな曲がり角かもしれない。しっかり、心して見定めておこう。

ただちょっと残念なのは、あわただしい出来事の前では、花も鳥も、それを愛でる心を僕が失ったしまったこと。まして死を前にしたときには、風流も文学もなく、ただうろたえるばかりになることだろう。