大井川通信

大井川あたりの事ども

小津の誕生日

映画監督の小津安二郎(1903-1963)と僕は誕生日がいっしょだ。若いころ、蓮実重彦の本でそのことをおしえられた。相変わらず本気とも冗談ともつかない調子で蓮実が語るには、小津が特別に偉い人物である証拠は、還暦の誕生日にピタリと人生を閉じたところにあるそうだ。なるほど、自死でもないのにそんなことが誰にもできることではない。

それ以来、僕も将来の還暦の誕生日を一つの区切りとして意識するようになった。僕のあこがれの哲学者廣松渉(1933-1994)も還暦で亡くなっている。彼らは膨大な仕事を60年という人生の時間の中でやり遂げているのだ。

凡人の僕には、誇るべき仕事などはないが、還暦まで生きられたのは十分恵まれていたとはいえる。今年はコロナ禍で、還暦を目前に命を落としかけて、いっそうそのことを意識した。

後、数日で誕生日。その日を無事に迎えられることに感謝。