大井川通信

大井川あたりの事ども

ちくわぶ(竹輪麩)の味

玉乃井に年始の挨拶にうかがって、安部さんと東京の食べ物の話になった。安部さんは、初めは苦手だった納豆も食べられるようになったが、ちくわぶだけはだめだった。あんな不味いものはないという。

僕はショックを受けた。子どもの頃、実家のおでんの具の中で、一番美味しくてたのしみだったのが、ちくわぶだったからだ。そういえば、東京を離れてからちくわぶを食べたことがない。東京ローカルの食材であることも知らなかったのだ。

ちくわぶは、小麦粉をちくわのような円筒形の形にこねて、ゆでたものだ。ちくわよりも太く、外側に歯車のようなぎざぎざがついている。発祥には諸説あるようだが、高価な魚のすり身を使う竹輪の代用品、というのがわかりやすい。ただ子どもたちには、味に癖のあるちくわよりも、もちもちした触感で、おでんの汁の味がよく染みた「代用品」のちくわぶの方がずっと人気があったと思う。

ところで、「おそ松くん」のキャラクターチビ太が持っているおでんの串には、上から三角、丸、四角の具材が刺さっていて、一番下はぎざぎざ入りの円筒形だからちくわぶに見えるのだが、残念ながら真相はナルトのようだ。

すいとん(だんご汁)に入った小麦粉のだんごが、おでんのちくわぶと味や触感が似ている。そのためか僕はだんご汁の店には入ってみたくなる。ところが、妻は父方の田舎で、まずいだご汁(九州ではそう呼ぶ)を食べさせられたトラウマから、だんご汁を受け付けない。僕のちくわぶへの郷愁はつのるばかりだ。