大井川通信

大井川あたりの事ども

鵺(ぬえ)の正体

この冬、冬鳥をあまり見かけないと思っていたら、自分が実際に鳥見に歩いていないことに気づいた。鳥たちは、こちらが関心をもって戸を叩かないと、ほとんど姿を見せてくれることはない。

久しぶりの好天の大井川歩き。双眼鏡の焦点を合わせたり、目当ての場所にすばやく視野を合わせたりすることすら、おぼつかなくなっている。村茶乎の庭で、ブルーの身体にお腹がレンガ色のイソヒヨドリ。庭木にモズ。大井川脇のやぶに、お腹が黄色く目元の黒いアオジ。大井川からはキセキレイが飛び立つ。旧友との再会を楽しむように、一羽ずつ名前を唱えて姿を慈しむ。

宗像大社近くの林で、地面から低木の枝に飛び移った鳥の影がある。ようやく双眼鏡の操作のカンも取り戻して狙いをつけると、視野に入ってきたのは、まったく見たことのない鳥の姿だった。ツグミに似た中型の鳥だが、目の周りから全身にかけてまだらの斑点でおおわれている。すぐに飛び去ってしまったが、その姿は目に焼き付いた。

図鑑では目にした記憶があったので、名前はすぐに思い浮かぶ。調べると、間違いなくその鳥だ。トラツグミ。悲し気でちょっと不気味な鳴き声から、昔の人は、妖怪である鵺(ぬえ)の声と信じていたそうだ。

定点観測の鳥見を続けていると、新しい種類に出会う機会はめったになくなってくる。今回は久しぶりの鳥見への、大井の神様からのご褒美だろうか。