大井川歩きをしようとして、玄関を出て一歩目のまだ玄関ポーチにいるときに、足が釘付けになった。一歩外に出ると、そこがフィールドだというのが、大井川歩きのよいところだ。自画自賛だが。
隣家の屋根のテレビアンテナの上でモズが鳴いている。ケッ、ケッ、ケッ、と一音ずつ間を空けて強く鳴いていて、あまり聞きなれない声だったが、いわゆる「高鳴き」というやつだろうとばくぜんと思った。
モズは子どもの頃から、身近で好きな鳥だ。大井川流域でもよく見かける。しかし、バードウォッチャーを気取りながら、まだ有名な「はやにえ」を見つけたことがない。エサの昆虫などを木の枝などに刺しておくというあれだ。
さらにいうと、モズは漢字で書くと百舌とか百舌鳥になるが、そのゆえんはいろいろな鳴き方をするからだという知識はもっているけれども、その能力をフィールドで確かめたことはなかった。
アンテナ上のモズに戻ると、彼(オスでした)は落ち着きなく、周囲を見回しながら、大きく口を開けて、さきほどの鳴き声を繰り返している。周囲を威嚇しているようでも、ライバルの登場を警戒しているようでもある。
やがて、別の家のアンテナに飛び移ると、今度は、クックックックック、と小声でまるでカラ類の小鳥みたいな声で鳴き始める。この時は、両方の翼を少し浮かせて、震わせるような仕草を見せる。
今日は、フィールドを歩きながら、あちこちで電線や木のこずえで鳴くモズに出会った。先ほどの二種類の鳴き方のほかに、キチキチキチキチ、という聞き覚えのある警戒音みたいな鳴き声も聞くことができた。
双眼鏡で観察すると、鳴き方の違いに応じて、くちばしの開き方が違うのに気づく。まさに百の舌をもつ鳥の能力の片鱗をみた気がした。