大井川通信

大井川あたりの事ども

日本建築の特質と心 枝川裕一郎 2017

全体ありき、ではなく「部分から全体へ」という考え方を基礎にして展開される日本建築の特質を、実例をあげながら説明する。

それを Japanese Identities として日本文化論と直結させるところはやや単純化のきらいがあるが、諸特質の列挙は網羅的で、「自然との共生」や「非対称性」など一般にも聞きなじみがある特質以外にも、「小空間への傾注」「全容を見せない」「奥の概念」等、具体的で説得力のある説明がくわえられる。

これは、著者が単なる研究者ではなく、三菱地所で大規模な再開発を実際に手掛けた技術者のためだろう。隣接住民等の納得を得ながら設計を進めるために、現代においてもこれらの諸特質を勘案する必要があるというのだ。

そのほか、具体的な設計手法への言及も面白い。例えば「サンプリング&アセンブリー」は、歴史的建造物の要素を採寸、抽出し、新しい建造物のデザインの中で再構成するという方法だ。ここでも、部分から全体へ、という発想によって伝統的な街並みとの調和が図られている。