大井川通信

大井川あたりの事ども

あなた、ハトじゃないわよね

田んぼのがひろがる脇の道でのんびり自動車を走らす。電線から大柄の小鳥が地面にダイブする。モズだろう。この冬もとうとうモズのはやにえを見つけられなかったと、ちらっと頭をかすめる。

畑の脇の小屋の屋根の上で、青い鳥がしきりに尾を振っている。その鳥を撮ろうというのだろうか、おばさんが一人、スマホをかかげて近づいていく。人慣れしたイソヒヨドリは、すぐには逃げず、いい被写体となったみたいだ。

田んぼの脇に車をとめて、勤め人風のおじさんである僕が、散歩中のおばさんに声をかける。「写真、撮れましたか」

彼女は、珍しい鳥だったので、「あなた、ハトじゃないわよね」と話しかけてスマホを向けたのだと、まるで少女のようにいう。僕は、鳥の名前と、本当は海辺に住んでいること、春先にはとても良い声で鳴くことを、まるで少年のように親切に教えてあげる。

車を動かす。バックミラーをのぞくと、さっそくおばさんが、スマホに向かって何か入力している。イ、ソ、ヒ、ヨ、ド、リ、と検索しているのだろうか。仕事中のおじさんは、次の訪問先へ向かう。