大井川通信

大井川あたりの事ども

ゆあーん ゆよーん ゆあゆよん

父親は、中原中也が好きだった。本箱一つと決めていたらしい蔵書の入れ替わりは激しかったが、中原中也の詩集は、たいていそこにあったし、古本屋で処分してしばらく見なくなっても、また買い求めて復活したりしていた。

ある日、父親は古本屋に買い物に出たきり、交通事故にあって病院に搬送されて、結局家に戻ることなくこの世を去った。

そのあと母親が一人暮らしを10年ほど続けた後、一昨年に亡くなって実家は無人となった。昨年実家を処分するとき、僕は父親の本箱から、記念に何冊かを持って帰ったけれども、その中に、角川書店中原中也全集の二冊が入っている。

僕は、子どもの頃から詩が好きで、朔太郎や立原道造伊東静雄ら近代詩人はたいてい好んで読んでいたが、どうも中原中也とは相性が悪かった。大人になっても記念館に行く機会などもあって、なんどか詩集を手にとったがうまくその世界に入りこめなかった。

今回、参加している読書会で取り上げられたので、ようやく全詩集を読み通そうと思った矢先のコロナ騒動で、結局それもかなわなかった。この世はままならないということなのだろう。

「幾時代かがありまして/茶色い戦争ありました」