大井川通信

大井川あたりの事ども

ドーピングについて

近ごろ、プロレスや格闘技関係の動画を見ることが多い。実際の試合の動画ではなくて、選手たちが当時の裏話をしているような動画だ。なぜ、こんなものを見るようになったのか。初めは野球関連の動画が、意外に面白いと気づいたためだ。

しかし、野球もプロレスもある程度熱心に見たのは子どもの頃だから、選手たちが裏話を語る表側の試合やストーリーについてよく知っているわけではなく、ぼんやりとそんなこともあったかもしれないという記憶があるくらいだ。いやまるで全然しらないことの方が多い。にもかかわらず、元選手たちの裏話や、裏話の解説動画を喜んで見ているのは、我ながら不思議な気がする。

これはおそらく、人間の体験というものの一般的なあり方と関係しているのだろう。はじめに客観的な全体像が一気に与えられるなんてことはまずない。まず出会うのは、ひそひそ話や裏話などの断片的な情報だ。それを手がかりに、手に入る情報を組み合わせて、事の真相に肉薄していく。

2002年2月1日の新日本プロレス札幌大会での「猪木問答」といわれる「事件」なんて、全くの初耳だし、一見どうでもいいに思えるが、僕自身が多少興味をもってながめてきた70年代以降のプロレスと格闘技をめぐる関係の歴史を象徴する出来事でもある。それで、関係者の証言に耳を傾けてしまう。

話がそれた。格闘技動画の中で、筋肉増強剤としてのステロイドの話が出てきて、なるほどと思ったというのが今回の話。

僕がコロナ肺炎の治療で大量にステロイドの投薬をしていると主治医から聞いて、なんだか身体に悪そうだなと思ったのは、この情報が漠然と記憶にあったからだ。ステロイドのやりすぎで早く死んだという話も聞いたことがある。

僕の場合、筋肉がつくことはなかったが、精神の活性化にステロイドの効果はまちがいなくあった。気力が充実し頭の回転が速くなったのだ。一か月がたち、ステロイドの量を徐々に減らすに従って、残念ながら無気力ないつもの自分に戻りつつある。

危険だとわかっていても薬物に手を出す人間の気持ちが、はじめてわかったような気がする。あの時の自分のパフォーマンスがクスリで手に入るなら。僕は飲まないからわからないが、そもそも飲酒自体そういうものなのかもしれない。