大井川通信

大井川あたりの事ども

神保さんの旅立ち

詩歌を読む読書会で、たいへんお世話になった神保さんから古書店の廃業のお知らせが届いた。折尾で経営していたブックバーも少し前に店を閉じている。健康上の理由かと思って心配したけれども、電話すると、もっと前向きな理由から活動の拠点を移すことがわかって安心した。

神保さんと出会ったのは、小倉で開催されていた木曜読書会で、かれこれ8年くらい前になるだろうか。神保さんの活動は、本や雑誌の出版、詩歌や小説の執筆、詩のリーディング等多岐にわたっているが、僕が関わることができたのはそのごく一部だった。

その中で、折尾で毎月約5年にわたって開催された詩歌を読む読書会は、僕には本当に貴重で有難い機会だった。僕が子どもの頃から好きだった近代詩や現代詩を、あらためて丁寧に読み直すことができたのだ。それだけでなく、僕が疎い外国詩や短詩型文学、漢詩なども幅広く神保さんは選んでくれたので、翌月の選書が本当に楽しみだった。

参加できたのは全体の三分の二くらいで、宮沢賢治と中原中也を読む会をともに都合がつかずに欠席したのは、今でも残念だ。二人とも関心がありながら、僕には苦手意識があって手に取ったり読み通したりすることが難しい詩人だからだ。

課題の詩歌集から、気に入った作品を3つ選び、それについて語るだけでなく、他者の選んだ作品についても自分なりのコメントを加えないといけない。常連には神保さんの他にも短歌の実作者がいて、参加者それぞれの語りからも大いに刺激を受けた。

僕は一度も選書について神保さんに希望を言ったことはない。この会では、自分からは手に取りそうにない詩歌集を挑戦してみたいと思っていた。それでも今になって振り返ると、自分の好きな丸山薫や村野四郎の詩集をいっしょに読んでみたかったと思う。

神保さんに教えてもらった縁で、筑豊出身の詩人加藤介春(1885-1946)の古書を探したり、生家を訪問したりすることができたのもよい思い出だ。その他、神保さん主催の読書会(コロナ禍でネット開催)で『古事記』や『ドグラマグラ』を読んだことも印象に残っている。

安部文範さんと二人で神保さんのブックバーに訪ねたことがある。ちょうどコロナ禍の始まる直前だった。神保さんが大学の後輩と知って、安部さんも楽しそうに歓談していた。また行きたいと言われているうちに、安部さんが突然病気になり再訪の機会を失ったのは残念だった。

神保さんの多彩な活動の場は、転居をきっかけにさらに広がることだろう。神保さんの健康といっそうの活躍を祈りたい。

 

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