大井川通信

大井川あたりの事ども

『古代から来た未来人 折口信夫』 中沢新一 2008

地元の大井川の周辺を歩くと、まず目につくのは、平地に広がる田畑である。あるいは、里山に植林された針葉樹であったり、斜面に広がるミカン畑であったりする。大地や川や山は「物質」であり、それが育む稲や麦、果実は「生命」だ。集落には人々が住み、田畑や里山での働きにせいを出す彼らは「魂」をもつ。そうして村里の暮らしはゆたかな余剰を産み、「自然な増殖」を行う。

中沢によると、折口信夫は、物質−生命−魂の三位一体構造を「ムスビの神」ととらえて、その根本の働きから、神道を作り直そうとしたのだという。中沢はそれを、天才的な着想と絶賛するけれども、村里をありのままに見れば、そこに自ずから実現していることに気づく。

豊作や好天を祈り、病気などの災厄を祓う神社や辻々の祠は、三位一体を作用させる「ムスビの神」そのものだ。近年里山の斜面に目立つソーラーパネルさえ、ムスビの神によって余剰生産の役割を与えられた新種の「生命」に見えてくる。

いつもながら中沢新一の文章には、あるがままの世界を活性化させ、それに向き合う精神を元気づける魔法がやどっているようだ。共同体の一体感を支える神を求める柳田国男との違いや、共同体に外から衝撃を与える「まれびと」の概念、芸能への姿勢、『死者の書』の解釈など、どれもわかりやすくて、折口信夫をぜひ読みたいという気持ちにもさせられた。