大井川通信

大井川あたりの事ども

今村ゼミの思い出

当時は、就職活動の解禁は、大学4年の6月くらいだったような気がする。卒業後就職して会社員となるというイメージしかなかったから、大学では3年から保険法の就職ゼミに入っていた。一年間、今村先生の講義を熱心に聞いて、さて学生最後の一年をどう過ごすのか。

おそらく自分なりにいろいろ悩んだと思う。どうしてそんなことを思いついたのかはわからないが、東京経済大学の今村ゼミに入れてもらおうと考えた。当時は、ニセ学生マニュアルなどの本も出版されていて、そういうことに寛容だったのかもしれない。これもどうかと思うのだが、ゼミの初日の朝、先生の自宅の最寄り駅(確か八王子の片倉駅)のホームで先生に直談判して、ゼミへの参加をお願いした。先生といっしょにゼミの教室に入ると、そこにも一人他大学の学生がいて、その場で参加を頼んでいた。そんなことでよかったのか、と拍子抜けした記憶がある。

ゼミでは、ハーバーマスの『認識と利害』とアルチュセールの『資本論を読む』を読んだ。参考図書として廣松渉の『存在と意味』が指定されていた。他大学から参加しているといっても、僕には素養も実力もなく、目立った活躍は何もできなくて、先生には申し訳なかったと思う。ただ当時は、現代思想ブーム、ニューアカデミズムブームの渦中で、今村先生も脚光を浴び始めた時期だったので、思想界の中心にふれているかのような雰囲気を楽しむことはできた。この年の秋には、今村先生が「発見」に一役買った浅田彰の『構造と力』がブームとなり、一橋大学での講演で彼の才気煥発な姿を見ることができた。

今となれば、その多くは流行であり、幻想に過ぎなかったことはわかっても、80年代という時代と自分の青春がクロスした貴重な思い出である。