大井川通信

大井川あたりの事ども

黄脚毒蛾の乱舞

武蔵野に立地する某メーカーの研究所の敷地は、鬱蒼とした森になっている。周囲の開発から取り残されたブラックボックスみたいだ。

朝、敷地の塀に沿って歩いていると、モンシロチョウの姿が目立つ。しかし、どこか違和感がある。

モンシロチョウにしては、やや小ぶりで、黒い紋が目立たず、真っ白だ。飛び方も少し弱々しいし、何より、足元の花々には見向きもせずに、高い樹木にたかるように飛ぶのが奇妙だ。

ようやく塀に止まった一匹を見つけて驚いた。太い胴体に小さめの羽を伏せる姿は、明らかに蛾だった。足先は黄色い。

あとで調べると、キアシドクガ(黄脚毒蛾)だとわかる。名前に相違して、実際には毒はないらしい。

数百メートルにわたって並ぶ木々に、白いヒラヒラの乱舞が途切れることなく続いているのだ。見るところ、樹種を問わずに、梢の高さまで、ヒラヒラとまといついている。森全体では、何十万匹という数ではないのか。

ふと見ると、歩道に落ちた一匹を、ムクドリがくちばしで引き裂いて、食べている。都会のムクドリは人懐こく、逃げる様子もない。ムクドリたちも、街路樹のねぐらでの巨大な群れで、人目を驚かす存在だ。

人間たちには異常に思える発生も、おそらくは食物連鎖の過程の一コマに過ぎないと気づいて、ちょっとほっとする。