大井川通信

大井川あたりの事ども

読書という次元移動装置

月に一度の吉田さんとの勉強会。今日も、ファミレスで夕食を食べ、ドリンクバーを飲み続けながら、五時間以上話をする。

僕は、『ファンタズム』と『黒衣の使者』と『アジャストメント』についての記事を組み合わせたレジュメを用意した。吉田さんは、戦争映画、とくに『黒い雨』について書いた文章を持ってきてくれる。

レジュメは思い付きで作ったものだが、それにそって説明しながら、新しいアイデアを得ることができた。

ホラー映画『ファンタズム』のシリーズには、あの有名な殺人銀球とともに、次元移動のモチーフがある。銀球と同じく、シンプルな工業製品であるスチールの円柱を二本地面に立てただけの装置だが、その間を進むと、全く別の次元の世界へと移動してしまうのだ。

実際の映像ではこんな感じだ。砂漠のような荒野に円柱が二本立っている。アイスクリーム屋のレジーが、意を決してその間に飛び込むと、映像は突然、ある老人介護施設で初老のレジーが、看護士に世話されて車椅子で生活している場面に切り替わる。

実はこの謎の装置について、特別な説明が施されているわけではない。しかし観客は、多少の混乱に巻き込まれつつも、レジーは別の次元の世界での自分を体験しているのだと、容易に理解することができるはずだ。それはなぜなのか。

『黒衣の使者』では、古書店の店員である女性が、ベットで古いホラー小説を開くと、突然映像は、古い屋敷で怪人に美女が襲われるシーンに切り替わる。その美女は、古書店員の女性が演じているために、観客は、これが書物の中の世界であり、読者である女性が書物の主人公になりきっているのだと、自然に理解することができるのだろう。

つまり、そうと名指されていなくとも、書物という昔からのありふれたメディアは、実はすぐれた次元移動装置なのだ。読書という次元移動の体験があるから、『ファンタズム』の二本の円柱の機能を、観客は容易に類推することができるのだろう。(哲学理論やSF作品での一見荒唐無稽な最新の設定も、実際には読書が可能にする体験をなぞっているだけのような気がする)

こんなことを興奮して話したのだが、興味をもって聞いてくれる友人の存在は本当にありがたい。力説する内容も、当たり前だったり、勘違いだったり、ただの妄想だったりすることもあるのだろうから。しかしそれはそれで、次の気づきや発見につながってくれるはずだ。

会の終わりに、京都アニメーションの事件の話題をだしたら、大阪で映像関係の仕事をしている吉田さんは、亡くなった関係者のうち三人と面識があったというから驚いた。幸いケガで済んだ知り合いには病院にお見舞いにいったという。特に親しかった友人からもらったアニメ関連の資料は、会社へ寄贈したそうだ。