大井川通信

大井川あたりの事ども

ゲンゴロウの歓喜

十数年前に、近所の田んぼにもゲンゴロウがいるのではないか、とふと思い立ち、近隣を歩き始めたのが、大井川歩きの原点だった。その夏に、10ミリ前後以上の大きさの中型種ではハイイロゲンゴロウとシマゲンゴロウ、コシマゲンゴロウを発見する。ろ過装置をつけた水槽で、12月くらいに死んでしまうまで、飼っていた。

その時以来、夏になるとあぜ道で田んぼをのぞいてきたが、毎年ハイイロゲンゴロウの姿は必ず見つけることができた。シマゲンゴロウとコシマゲンゴロウの姿は、熱心にさがした初めの夏以来、見ていない。その夏には、2ミリほどのチビゲンゴロウ、5ミリほどのセスジゲンゴロウも見つけている。

このくらいの観察歴だが、同じ中型種でも、ハイイロゲンゴロウは、およそ別の生き物と思えるほど、別格の存在であると感じてきた。このことは、水生昆虫の図鑑やゲンゴロウの専門書にもはっきりとは書かれていないことだ。

何より泳ぐスピードと活動量が、僕の見たシマゲンゴロウらの、10倍くらいある。それこそ目にも止まらないスピードなのだ。生命力の違いからなのだろうか、環境の良くない街道沿いの田んぼでも、大量に発生していたりする。

職場近くの田んぼにも、ハイイロゲンゴロウがいることは数年前から気づいていたが、機会があったら子どもたちにでも見せようと、ホームセンターで熱帯魚用の網を買ってきて、本当に久しぶりにすくって見ることにした。

あぜ道からのぞくと、予想以上にたくさんのハイイロゲンゴロウが泳ぎ回っている。水底の泥土の中にひそんでいるのだが、ときどき呼吸のために水面との往復をするときの泳ぎっぷりは、相変わらず暴走モーターボートを思わせるような乱暴なものだ。

やはりカンは鈍っている。泥土ごとすくって、なんとか二匹をつかまえて帰ろうとしたときに、ふと、水中を「優雅に」およぐ一回り小さなゲンゴロウの姿が目に入る。こちらは簡単に網ですくうことができた。コシマゲンゴロウは、以前にも何匹もつかまえてはいたが、やはりうれしかった。

ビンにいれて観察してみると、どことなく違和感がある。コシマゲンゴロウにしては、あまりにシマが薄く、目を凝らさないと見えないくらいだ。もしや、と思って調べると、ウスイロシマゲンゴロウ(薄色縞源五郎)という比較的稀少な種類だった。地味だが、すっきりとした愛らしい姿だ。

ゲンゴロウの新しい中型種に出会うのが、あの夏以来の夢だった。わずか30分の探索でその夢がかなうなんて、やはり世の中、どこに喜びがあるのかわからない。