大井川通信

大井川あたりの事ども

革の財布を父の日にもらう

長男が、大学卒業後三年近く勤めた会社を退職して、就職活動を始めた矢先、コロナ禍が発生した。あれよあれよという間に、リーマンショックを超える本当に百年に一度の大不況に突入してしまった。さすがにこんな事態がわかっていたら、前の会社は辞めていなかったと息子はいう。

就職活動すらままならないから、長男は家にいる時間が多い。茶碗を洗ったり、庭の草刈りをしたり、とにかく良く家事をする。休日には車で妻と買い物に行ってくれたりする。これは僕の毎週の仕事だったから、かなり助かる。

何より、毎週の体操教室や毎月の出店などが無くなり、心理的にもダメージが大きい妻の毎日の話相手になってくれているのがありがたい。対人関係を閉ざしがちな次男とも、積極的に交流してくれている。

猫の九太郎は・・・こちらは、長男のための精神安定剤の役割を担ってくれているようで、しつこくかまうから迷惑しているようだ。

「子ども部屋おじさん」という言葉があるそうで、大人になっても実家の元子ども部屋で生活することらしいが、自分がそうだと自嘲しても、カラっと明るい。

小学生、中学生、高校生と、長男にはずいぶん説教をした。本人のためだと信じていたが、別のやり方はあったはずで、申し訳なかったと思う。初めの会社を3年弱で辞めたのは、僕もいっしょだが、僕の場合は職場で役に立たずに追い出されたようなものだった。長男の話を聞くと、営業成績で表彰されたり、役員から引きとめられたり、僕とはまったく別の道を歩いているのだと実感する。

今の彼のような家族への接し方も、僕にはできなかった。だから、僕はもう、長男には何も言わない。何も言えなくなったのだ。

長男は、このごろ、熱心に革製品の手作りをはじめた。もともと革が好きだったから、この機会に学ぼうと考えたらしい。材料を買ってきて、几帳面に手縫いしている。こうした振舞いも、僕の想像の「斜め上を行く」ものだ。

そして父の日には、使いやすそうな、しっかりした茶色の革の小銭入れをプレゼントされる。もちろんうれしいけれど、ちょっとキツネにつままれたよう。