大井川通信

大井川あたりの事ども

ゆめのきゅうさくのごとある

夢野久作というペンネームが、博多の方言に由来することは、比較的有名な話だと思う。二葉亭四迷という筆名の由来が「くたばってしめえ」であることほどメジャーではないかもしれないが。「夢の久作」が「夢想家、夢ばかり見る変人」の意味であることはネットにも書いてある。

ドグラ・マグラ』の読書会をした時に、この逸話は本当だろうかという話が出た。参加者は、博多の出身でこそないが全員福岡県人だが、実際にこの言葉を聞いたことがないのはもちろん、書物の中でもこの逸話以外でこの言葉に触れたことがない、というのも共通だった。

後になって妻と話しているとき、以前、彼女からこんなエピソードを聞いたことがあったのを思い出した。すっかり忘れていたのだ。妻は、両親が離婚して母親が働きに出ていたため、おばあちゃんに育てられた。その祖母が、「ゆめのきゅうさくのごとある」とよく言っていたそうだ。

子どもだから、その意味はよくわからなかったが、なんでも自分がボーっとしているに時に、そんなふうに言われたらしい。

結婚前には亡くなっていた祖母は、おそらく明治の終わりころの生まれだったろう。東北の福島の出身だったが、東京に奉公に出て、長崎県五島出身の祖父と知り合い、昭和の初めには博多で所帯を持って、妻の母を産んでいる。「ゆめのきゅうさく」は戦前の博多では、やはり日常語だったのだろう。

さっそくこのエピソードを書いて疑問の主にメールで送ると、長年の疑問が解決したと喜んでもらえた。