大井川通信

大井川あたりの事ども

家族優先の原則

玄関の脇に、大きなキャリーバックが置いてある。明日、妻が天神のお店にスペースを借りて小物を出品するからその準備だろう。思ったより大きなバックなので、持ち上げてみるとかなり重い。これはまずい、と思った。

かなり前から明日の出品は自分で電車にのっていくからと言われていたから、僕は一日自分の予定を入れてある。午後一番に行橋に井手先生を訪ねて、その帰り道、折尾で詩歌を読む読書会がある。課題の『小熊秀雄詩集』はなかなか面白かったし、自分の得意の近代詩のジャンルだからぜひ参加したい。井手先生には訪問を予告しているし、何といっても先生の誕生日をサプライズで祝うという目的もある。

この予定のとおりだと、サポートできるのは朝に最寄り駅まで車で送ることだけだが、博多駅の乗り換えや地下鉄の乗り降りなど、この荷物を抱えて移動するのは妻には(それこそ)荷が重いだろう。妻は手術の後遺症で、あまり右手に負担をかけられない。

朝の一人ファミレスで、明日の二人の日程の調整について、あれこれシュミレーションを繰り返す。一番頭が働く環境なのだ。

そこで名案が浮かぶ。詩歌の読書会の参加はあきらめよう。自分にとっては確実にプラスになる会だが、家族の事情が優先する。まず、朝、妻を荷物と共に、午前9時までに天神まで送る。博多の一日料金の安い駐車場に車を止めて、JRで行橋に向かう。時間に余裕があるから、特急を使う必要もない。先生のところに2時間お邪魔しても、帰りは特急で午後5時に博多に戻れるだろう。店の終わった妻を迎えにいくことができる。

車の運転も妻の送り迎えのための最小限ですむし、通勤定期や駐車場の一日料金を使えるからコストパフォーマンスもばっちりだ。往復のJRでたっぷり本を読むこともできる。

結局、当日はこの作戦のとおりにすすんだ。妻からは何度も感謝の言葉がでて、年末に地の底まで落ちた夫婦関係がなんとか持ち直したことを実感する。