大井川通信

大井川あたりの事ども

2月23日

自分にとってだけ、忘れがたい日にちというものがある。私的な記念日ではあっても、結婚記念日や家族の誕生日や忌日であったりしたら、それはどこかの公的な記録に書きつけられている日付だろう。人が個人的に大切にすべき日にちとして、社会的にも公認されているわけだ。僕が書きたいのは、もっとどうでもいいような、しかし忘れがたい日にちのことだ。

毎年、2月23日になると、何か心をよぎるものがある。その理由をはっきり自覚することもあるし、そのままやり過ごしてしまうこともある。あれから40年以上がたって、やり過ごしてしまうことが多くなった気もするが。

この日は、僕の第一志望の大学の入学試験の日にちだった。都立のあまり冴えない進学校の学生だった僕は、周囲に合わせてあまり勉強もしていなかった。当時は七割が浪人していた時代だ。家の経済状況から浪人はしないと決心して、高校3年になってからは、入学試験日を目指してひたすら勉強した。それでこの日付が、僕の頭に刻印されたのだろう。

試験当日、会場の席の前後7人を数えて、彼らに僕が勝てるだろうかと不安に思ったのを覚えている。実質倍率が約7倍だったからだ。試験の帰り、予備校が校門で配布する正解の速報チラシを見ると、意外に当たっていることを喜んだ。

合格発表は3月6日だった。初めて入った大学の本キャンパス。合格掲示板にあった受験番号。振り返ると、写真で見たことのある時計塔の姿。親への電話。会場に臨時の公衆電話が並んでいた時代だった。そんな鮮やかな記憶はあるが、日付としては一年の思いがつまった入学試験日の印象がつよい。

僕の記念日をオーソライズしてくれるかのように、昨年からこの日が天皇誕生日になった。と同時に、またしても、この日付に忘れがたい思い出が重なったのだ。

一年前の今日、ネットで偶然、バンドメイド(BAND-MAID)の動画に出会っている。それ以来、音楽好きでもない僕が毎日彼女たちの音楽を聴き、音源やビデオを手に入れ、4回のオンラインライブも視聴した。毎日の生活にずいぶんと彩りと喜びを与えてもらっている気がする。人生何があるかわからない。