大井川通信

大井川あたりの事ども

『めぐり めぐる』 ジーニー・ベイカー 2021

原作は2016年の作品で、イギリス出身オーストラリア在住の絵本作家によるもの。コラージュの技法を得意としているらしく、透明感のある広々とした画面に自然や生き物の姿が生き生きと写し取られている。

主人公は、オオソリハシシギという渡り鳥。繁殖地のアラスカから南半球まで太平洋を渡る、1万キロ以上の無着陸飛行(絵本の中では9日間飛び続ける)の最長記録をもつ鳥だという。

冬の間オーストラリアの水辺の採食地ですごしたオオソリハシシギは、春になると群れになって北を目指す。この時はコースを変え、中国の黄海の周辺や日本の湿地に立ち寄って羽を休め、お腹を満たしてからアラスカに向かう。

しかしアジアのこの辺りは、開発による自然破壊の激しい場所だ。オオソリハシシギの群れが湿地をなかなか見つけることができない場面が描かれていて、彼らのために自然環境を守ることの大切さに思い至る。

本当は、どんな身近な生命でも実に驚くべき営みをしているのだけれども、僕たちはそれになかなか気づくことができない。一生の間に飛ぶ距離が地球と月との往復よりも長いといわれるオオソリハシシギみたいな生き物は、これだけ科学技術の発達した人間の尺度からも、そのすごさがわかりやすい。自然への畏敬の念を取り戻させてくれる貴重な存在だ。

僕は一度だけ、オオソリハシシギの姿を見たことがある。2019年4月3日。玄界灘の浜辺だ。ほっそりとした小柄な鳥だけれども、凛とした姿に魅せられたのか、手帳にはスケッチに加えてこんなメモがある。

「くちばしは、やや上に向けてそりがある。先の4分の3くらいが黒っぽい。身体はグレーのまだら。眉斑(びはん:眉の白いライン)あり。足長い。尾短い。波打ち際の浅瀬を足をひたして歩く。やや浅い角度でくちばしを海面に突っ込み、すくうようにしてエサをさがす」

この時も図鑑で調べて、赤道付近から北極海への渡りの途中だと知ったけれども、言葉の知識だけではそこまでの感動はなかったような気がする。絵本によってビジュアル化されると、あらためてその驚異の生態に気づかされる。