大井川通信

大井川あたりの事ども

三浦小平二のぐい呑み

ネットオークションで、なんとか落札した「ぐい吞み」が届く。高価な陶芸品を買うなんてことは初めてだし、この先もないだろう。

「染付アフリカ風景」と箱書きされた小さなぐい呑みで、牛二頭と遠い山並み、流れる雲が青絵具で素朴なタッチで描かれているだけだが、それが大きな風景を感じさせる。

作者の三浦小平二(1933-2006)は、東京芸大教授を歴任し、人間国宝にも認定されている。略歴には1969年にアフリカ旅行の記述があるので、その頃の製作だろうか。だとしたら、僕が幼稚園で三浦先生から絵を習っていた時から数年後の作品だろう。

僕は、実家の近所の「ママの森幼稚園」に一年だけ通った。担任は堀越先生。園長先生は女性だったが、園長先生の旦那さんという人がいた。幼稚園児相手に絵画教室をやっていて、僕はそれに参加した。卒園時には、記念に園児全員が作ったお茶碗を焼いてくれたりした。ご夫婦の優しい風貌は、今でも記憶に残っている。

園長先生の旦那さんがその後陶芸家として偉くなって、名を成したことは風のうわさで聞いていた。だから、僕は自分のお茶碗を、有名陶芸家が焼いてくれたものとしていっそう大切にするようになったし、ときどきはそのことを人に自慢するようになった。

今回、久しぶりにその話をした時、ふと三浦先生自身の作品を手にしてみたくなった。便利な世の中だ。陶芸の知識がなくともネットオークションで作品を探し、手ごろな値段で気に入ったものを見つけることができた。

値段が安いのは初期のものだからだろう。しかし、締切直前に価格が吊り上がってしまい、予定外の価格であたふたと落札することになる。

僕は棚に、卒園の時先生に焼いてもらった茶色の分厚いお茶碗と、白い薄手のぐい呑みを並べてみた。お茶碗も、ひさしぶりに三浦先生に再会できたようで、なんだか嬉しそうだ。