大井川通信

大井川あたりの事ども

ヨシキリの舌にも春のひかり

職場の昼休み、久しぶりに河原に出ると、草原一面から何か騒然とした声が聞こえる。ギョギョ、ギョギョ、ギッ、ギッ、ギッ、チッ、チッ、ギョギョシ、ギョギョシ、というふうに、あちこちから色んな声で呼びかけられている感じなのだ。

カエルか虫かもしれない、と思うくらい、すぐ目の前の草むらから聞こえるのだが、誘われて足を踏み入れると、騒がしい声は歩くにつれて後退してしまう。鳥が飛び立つ気配もない。結局川岸までたどり着くと、近くの声と思えたのは、川の向う岸のアシ原の中からの声だった。

キツネにつままれたような気分だが、ここでヨシキリ(正式にはオオヨシキリ)の名前が頭に浮かんだ。行行子(ぎょうぎょうし)という別名も思い出す。まったく仰々しい声だ。姿を見ようと、橋の上にあがって対岸の葦原をのぞいたが、忙しく動きまわる姿をちらっと認めたくらいだった。

ヨシキリに出会うのは本当に久しぶりだ。ヨシキリといえば、草野心平の富士山の詩を思い出す。国語の渡部源蔵先生の授業風景が思い浮かぶから、中学の教科書に出ていた詩だろう。

「川面(かわづら)に春の光はまぶしくあふれ。そよ風が吹けば光たちの鬼ごっこあしの葉のささやき。よしきりは鳴く。よしきりの舌にも春のひかり。」

これがその第一連。源さん(それがあだ名だった)、絶賛していたな。草野心平が地元国立の冨士見通りでつくった詩を朗読してくれたのも、この時だったのだろう。厳しくて憂鬱な授業だったけれど、今から思い返すと、本当に詩や文学の好きな先生だったのだと思う。学恩に感謝。

 

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