大井川通信

大井川あたりの事ども

友達にお金を貸すこと(後半戦)

この二年半、友人に借金返済の話はまったくしなかった。コロナ禍も続いていたし、友人の体調の問題もある。とても切り出せる気はしなかったし、あれだけしっかり言ってあるから大丈夫だろうと思っていたのだ。

友人にも大きな仕事が入り出して、そろそろ返済してくれるかなと思いはじめた矢先だった。突然、友人から、日常経費の融通のために少額の借金の申し出のメールがあったのだ。もちろん、以前の分が残っている状態で申し訳ないとは断り書きはあったのだが。

これには面食らった。友人の真意を測りかねた。こんな申し出をしたら、せっかく鎮静化していた借金問題を蒸し返すことになって、僕の方に督促のきっかけを与えるようなものではないか。そんなリスクを冒すにしては、日常の資金ショートという理由も金額もしょぼすぎる。

いろいろ考えて見て、これしかないという結論にたどり着いた。友人にとって2年半前の借金問題はすでに過去のことであって、極端にいえばすでにお金の所有権は自分に移転済みの話になっているのだ。だから過去の借金について気軽に触れることができるのだろう。よもや、僕がそのお金を返済しろとは言い出さないだろうという思い込みがあるのだ。

おそらく今回の少額の借金は約束通り近日中に返済してくれるだろう。しかしそれにのってしまうと、過去の借金が終わったものだとする友人の思い込みに僕の方が加担することになる。過去の事はリセットされて、あらたに気安く借金を申し込めるフラットな関係に持ち込まれてしまうだろう。そうなると友人に対する僕の一方的な反感やストレスが蓄積されて、今後両者のいい関係を維持できなくなるのは明らかだ。

僕はできるだけ冷静に前回の貸し借り時の約束を復唱して確認した。友達からの借金は戻らないという認識のもとに通常の貸し借りはしない方針であること。しかし今回は非常事態なので「立替え」するだけであって、最優先で返済してもらいたいこと。

残念ながら3年前に約束した言葉は完全に吹き飛んでいて、金銭の貸し借りにおける鉄則のみが貫徹されていたのだ。どんな言葉のやりとりがあろうとも、占有が移って何事も起きなければ、時間と共に所有権は移転してしまうという鉄則が。

これは友人を責めているわけではない。僕よりはるかにしっかりした友人にしてそうなのだから、逆の立場だったら、僕もきっと同じようにふるまっていただろう。

だから僕は、今回の借金の申し出をていねいに断っただけでなく、過去の借財について来月以降の「毎月の」振込による返済(振込手数料はこちら持ちで一回の返済金額の多寡は問わない)を要求した。これは一見非情な提案に思えるだろうが、僕の真意は友人との関係をよいものとして維持したいというところにある。

この提案のあと、別の話題で長時間話したけれども、まったくあとくされはなかった気がする。しっかり考えた内容を本音で話してよかったと思った。