大井川通信

大井川あたりの事ども

『ここが家だ』 ベン・シャーン/アーサー・ビナード 2006

若い知り合いがやっている小さな本屋さんで購入。第五福竜丸事件を扱っているけれど、単なる告発や正義の主張に終わっていない。ベン・シャーンの連作を含めて、いろいろな方向へむかうベクトルを小さな絵本という形に押し込んでいる。そんな力に満ちた本だ。

本屋と言っても、知人が改造して事務所にしている古い屋敷の一室にある本のコーナーで、新刊をセレクトした書棚もあれば、個人が主宰する一箱古本屋や、貸本の書棚までがある。今は、あちこちで本をめぐって様々な新しい試みがされているけれども、そのエッセンスを詰め込んだような場所だ。

建物自体が、もとは町長の住宅で長く放置されていたものを、DIYの講座の受講生の手も借りて改修したものらしい。店番をしていたのも、地元の美術家と木工作家の女性だった。

人々のつながりの媒体となって、実際に役に立つモノとして本を扱おうという空間は風通しよく、スマートだ。一方、僕は、地理的には近い場所にある友人の書庫のことを思い出した。

その友人は、若いころから映画や漫画関係の書籍や雑誌などを大量に収集して、引っ越しのたびにその巨大なコレクションを抱えて移転している。それらを独占して個人の楽しみにしているわけではない。彼には私設図書館をつくりたいという野望があって、資料を人のために見せたり貸したりすることには積極的だ。今の借家でも、書棚を増設して資料の整理と陳列を、当然のように彼の一人の手でコツコツと行っている。

一見不器用なやり方で、コミュニケーションには背を向けたような彼のコレクションだが、それは本当に大切な何かを生み出す母胎にもなりうるだろう。同世代として応援したい気持ちになる。