大井川通信

大井川あたりの事ども

カミキリムシの話

黒光りする硬い甲羅におおわれた甲虫は、昆虫少年のあこがれの的だ。カブトムシやクワガタムシ。水中ではゲンゴロウ族。ただし、どこにでもいて、戦闘力のないコガネムシやカナブンの仲間には魅力が感じられないのは、仕方のないことだろう。

それでは、カミキリムシはどうか。大型の種類は、クワガタムシにも負けていない。シロスジカミキリを筆頭に、「ミヤマ」「ノコギリ」のラインナップまである。森や林に住んで、希少性があるところも同じだ。樹木を掘りぬくつよいアゴをもち、戦闘力も高いだろう。

にもかかわらず、カミキリムシは全く人気がなく、僕も子どもの頃、コガネ山でノコギリやミヤマを見つけた記憶があるのだが、まったくドキドキしなかった。大人になると樹木の害虫ということで見る目が変わるが、子どもはそんなことは気にしていなかったはずだ。

やはり魅力的なアイテム(武器)の有無だろう。カブトムシなら長い角、クワガタなら大あごだ。カミキリムシの武器であるアゴは小さく、目立つのは体長よりも長く立派な二本のヒゲ(触覚)だ。さすがにヒゲでは、子どもたちの心を奪うことはできないだろう。ただ初夏の日中、どこからともなく飛んでくるゴマダラカミキリだけは、黒地に白い斑点のビニールスーツを着込んだようなスタイリッシュな姿に魅了されたが。

先日、職場の駐車場で、薄い黄土色の体色の大きなカミキリムシが落ちていた。ミヤマカミキリの名前が浮んだが、図鑑で調べたら、ウスバカミキリだった。おそらく初めて見る種類だが、残念ながら、やはりドキドキ感はない。枝の先でつつくと、元気になって歩き出した。枝の先に捕まらさせて、森の方の草地へかえしてやる。

害虫だとは知っていても、そこは元昆虫少年の仁義。立派な姿に免じて、見逃してあげた。