大井川通信

大井川あたりの事ども

クマゼミの羽化

今月に入ってから、庭の周辺で見つけたセミの抜け殻を一カ所に集めている。手の届かないケヤキの枝の先に見つけたものも含めると、今日までで20個になった。そのうち19個は明らかにクマゼミで、一つはおそらくアブラゼミだろう。

二日前の夕方、庭の花壇の近くをうろうろと歩き回る幼虫を二匹見つけた。生垣のレッドロビンを抜いてしまったから、セミの成虫になる羽化のために登る手ごろな木が少なくなってしまった。大きなケヤキはあるが、幹の表面はすべすべで、幼虫は一足一足を慎重なクライマーのように探って登っていく。それでも途中で二回つづけて落下してしまった。翌朝には花壇のバラの茎の先に、新しい抜け殻を見つけたから、無事羽化したのだろうか。

昨日の昼過ぎに、庭でほとんど動かなくなった幼虫を見つけた。一晩中歩き回っても羽化する場所を見つけられずに疲れ果ててしまったのだろうか。なんとか丸めたティッシュにつかまらせて、ティッシュの先を鉄のポールの先に押し込む。これで羽化の態勢は何とかとれた。雨があがってにわかに鳴きだしたクマゼミたちの鳴き声がそれを応援する。しかし、ダメだった。羽化する体力が残っていない幼虫は、力尽きて草地に落下してしまった。

クマゼミの幼虫の地下生活は、平均7年間といわれる。だとしたら、今年のセミたちは、卵で過ごす1年を含めて、8年前の夏に鳴いていたセミの子どもたちということになる。8年前の2011年は、東日本大震災のあった年だ。あの頃は、今は社会人の長男と次男は、それぞれ高二と中一だし、妻も大きな手術と闘病を経験する前だ。ずいぶん長い間、地面の中から我が家の生活を見守ってくれていたのだろう。

この冬には、枯れ木の多かった生垣をすべて引き抜いて、ケヤキの伐採もしたから、昨夏にセミが卵を産みつけた枯れ枝はほとんど撤去されてしまった。7年後には幼虫が現れない夏が来るはずだ。

実は、この記事を書いている今現在、遅い梅雨の雨が降る庭で、一匹のクマゼミが羽化している真っ最中だ。先程見に行ったときには、完全に殻を抜け出した白いセミが、前足でしっかり抜け殻につかまってぶらさがり、透明な美しい羽根を平らに伸ばし終えたところだった。

ようこそ。これで、僕の観察の範囲内では、我が家の庭での羽化の成功は、21匹め。残念ながら羽化できなかったのは1匹ということになる。