大井川通信

大井川あたりの事ども

釣川浄土(鳥編)

岸由二さんの「流域思考」に共感しながら、大井川歩きは、気の向くままに近所を歩き回るばかりで、大井川の流れをさほど意識したものではなかった。本筋で言えば、大井川が流れ込む釣川(つりかわ)の方へと関心が向かないといけない。

ということで、今朝は大井川の流れの先に見える山、多礼(タレ)のミロク山を目指すことにする。大井川は平井山の開発もあって、もはや濁った小流に過ぎないが、釣川に合流してからは、川幅と水量も確保され、川の両側の土手には草が繁り、堤の外側には田畑が広がって、その向こうには里山の丘陵が続いている。

以前、前の職場への通勤で、堤の上のサイクリングロードで自転車をこいでいる時、至福の気分を味わって、思わず「釣川浄土」という言葉が口から飛び出したことがあった。今朝もまさにそんな気分。

不意にミサゴが、上空を河口に向って飛んでいく。自分のフィールドで出会う白いタカの姿は格別だ。カワウが水面を走るように何度も蹴って低く飛び立っていく。留鳥カルガモは見慣れていても、首を伸ばし、短い翼で力強く飛ぶときの姿は、まるでジェット戦闘機の編隊を見るようなかっこよさだ。

そこにふわっと、シルクのドレスをまとったコサギの群れが通り過ぎる。イソシギが小声で何かささやきながら、水面ぎりぎりを旋回する。川面には、冬鳥のマガモヒドリガモの群れも見える。川沿いの藪の切れ目には、アオサギが、背の高い賢者のように佇んでいる。はるか上空には、数羽のトビが自在に飛び交わしている。

鳥たちの交歓に立ち会っているこの場所を、「浄土」以外のどんな言葉でよべるだろうか。あるいはユートピア、もしくは極楽か。