大井川通信

大井川あたりの事ども

坂の神様

古事記」を読んでいたら、坂の神様、というのがでてきた。

山の神様とか、海の神様とかいうならわかるが、坂の神様というのはちょっと違和感がある。坂というのは、何かある実体というよりも、土地の傾斜という状態のことだろう。そこを切り出して、神格化するのは少し無理な感じがしたのだ。

しかし、実際には名前のある坂があって、そんな坂には特別な愛着がわいたりもする。たとえば、実家の近くにあった「たまらん坂」。清志郎にも歌われた坂だ。国立は多摩川河岸段丘上にあるから、坂が多かった。

亡くなった母は、子どもの頃から体操が得意で、歳をとってからも身体を動かすのが好きだった。しかし晩年の数年間は膠原病を患って、以前のようにダンスをしたり、歩いて遠出することが難しくなった。

「坂道をどんどん歩くのが自慢だったのに、もう歩けなくなった」

亡くなる少し前に、こんなことを言って不意に涙ぐんだのが印象に残っている。何事につけて前向きで、弱みを見せない母だったので。

そんな母も、今頃はたくさんの坂を、神様に見守られながら歩いているんだと思う。