大井川通信

大井川あたりの事ども

『不安な個人、立ちすくむ国家』 経産省若手プロジェクト 2017

数年前に話題になった本だが、これもパラパラとながめて、ほっぽり出していた。あらためて読むと、面白い。レポート部分は50頁にもみたないが、充実している。これを活用しないのはもったいないところだった。

結論部の提案は三点。高齢者を一律に弱者と見なす社会保障をやめ、働ける限り貢献する社会にしていくこと。子どもや教育への投資を財政における最優先課題にすること。「公」の課題を官だけではなく、意欲と能力のある個人を担い手とすること。

30人の若手職員のチームと幹部職員との協議によって練り上げられたレポートは、必要最小限のデータや情報が盛り込まれつつ、幅広い観点を示唆しながら、明確な結論へと絞り込まれている。やはり、人間のチームプレーの力はばかにできないと感心する。

本の後半部では、このレポートを題材にした、若手官僚たちと三人に知識人との対話が載せられている。養老孟司は、自然科学者の立場から、意味や都市に特化した文明自体を批判する。冨山和彦は企業経営の視点から、レポートの問題意識を掘り下げる。東浩紀は人文学者として・・・

こうして並べると、東浩紀(的なもの)の弱さ、ダメさが目立ってしまう。東は、若手官僚にマウントを取るような偉そうな態度をするわりには、学者としての公的な議論の責任を放棄して、自分が関心のあるマニアックな領域の話題にのみ執心する。冨山のいう「リーダー稼業」(他人の人生を背負う)をやる覚悟を明らかに欠いているのだ。

先日読んだ『ゲンロン戦記』は面白かったけれど、ゲンロンの混乱(小さなグループすらまとめられない)と同時期の発言と考えると、妙に納得してしまうところがあった。