大井川通信

大井川あたりの事ども

猫の集会

リビングで、長男と会話をする。昨秋に再就職した長男だが、今月に入ってからは緊急事態宣言の継続で、在宅勤務の日が多い。家族や猫とかかわるのが気晴らしになるのか、すっかり穏やかな表情になって、ふつうに話ができるようになった。

仕事の話から、本の話まで。実際に自分が仕事をやってみて、親父の苦労がわかったところもあるのだろう。今は、東浩紀の『ゲンロン戦記』を読んでいるみたいだから、その話もする。僕は『ゲンロン戦記』のあと柄谷行人の新著を読んでいるから、世代の違いで、両者の知識人としての覚悟の違いがあるね、などと言ったりする。

ふと見ると、二メートルばかり離れた長男と僕との間に、やはりちょうど二メートルくらい離れて、九太郎とリボンが座って、向かいあっている。直径二メートルの円周の四隅に二人と二匹が座って、それぞれ思い思いの姿勢をとりながら、みんなで話し合いをしているみたいなかっこうになっている。

「猫の集会」のつもりじゃないか、と長男がいう。都会で近所の猫たちが空き地に集まって、円を描いて座るというあれだ。

そうかもしれないと僕も思う。家族にとって何を話しているかなんてことはたいして重要でない。話の内容など、やがてすっかり忘れてしまうことだろう。大切なのは、この場で顔を合わせるということなのだから。