大井川通信

大井川あたりの事ども

駅舎の椅子

ようやく国立駅の駅舎も駅前ロータリーに復元されたようだが、コロナ禍で東京に行く機会もなくなったので、まだ目にしていない。ただ、復元途中の様子から、実際の駅舎として使われるのではなく「文化財」として保存・活用された建物は、気の抜けたハリボテのように見えてしまうのではないか、という気もする。

久しぶりのリアルの読書会で、折尾駅を利用すると、すっかり整備が進んでいる。迷路のように入り組んでいた構内は、近代的なターミナルとして生まれ変わった。国立駅と同じ大正時代の駅舎は取り壊されてしまったが、新しい駅舎にはシンボルとしてそのデザインが引き継がれている。

それはいかにもまがいものなのだが、素っ気ない現代風の駅ビルよりはずっといい。ふと見ると、ホールにはかつてのクラシカルな丸い椅子が再現されている。よく見ると、二つあるうちの一つは古い部材が使われていて、復元したものなのだろう。

かつての駅舎は木造で、ホールに立った柱を木で囲って円形のベンチが作られていた。僕は折尾駅の近くの職場に数年間勤務したことがあるが、車での生活だから日常的に使っていたわけではない。ただ、両親が遊びに来た時、この駅で待ち合わせたことがあって、この椅子に座っていた姿勢のいい父親の姿をよく覚えている。

こういう手に触れられる調度が実際に受け継がれていると、まったくのレプリカにも命が吹きこまれるような気がするから不思議だ。

今日は、父親が亡くなって15年目の命日。駅舎の椅子に座って、父をしのんだ。