大井川通信

大井川あたりの事ども

五月雨に鳰の浮巣を見に行む

芭蕉にこんな句があることを、ごく最近知った。鳰(にお)とは、カイツブリのこと。芭蕉の時代にすでに、カイツブリの浮巣(うきす)をみたり、卵がかえってからのヒナの成長を楽しんだりする習慣があったのだろう。

病院から久しぶりに家に戻って、家の回りを少しずつ歩き始めた。郵便局へ行くだけでも、けっこう息が切れる。ババウラ池では、ぼさぼさの産毛が生えたカイツブリのヒナが、もう大人程の大きさになって、自由に潜水を繰り返している。

数えると三羽いるから、先に生まれた二羽のヒナのあとで、浮巣に残されていた卵もあとから無事かえったのだ。よかった。僕が家を空けている間に、ここでもドラマがあったのだろう。親の姿は、一羽しか見えない。浮巣は水没したのか、残骸も見えない。

家から歩いて三分のところに、300年前から使われているため池があり、そこで毎年カイツブリの子育てを見ることができるなんて、なんというぜいたくな環境だろう。この土地で生活できることに、感謝。