大井川通信

大井川あたりの事ども

『吾輩は猫である』を読み通す

読書会の課題図書。

高校三年の受験勉強の息抜きで、なぜかそれだけ手元にあったポプラ社版少年少女文学全集の『吾輩は猫である』(上巻)を繰り返し読んで、笑いのセンスを磨いた。その後何度か全編読み通そうとするも挫折。今回読了して、やはり小ネタの面白さは前半に詰まっていると思った。

苦沙弥による「巨人引力」の翻訳や天然居士の墓碑銘の朗読。迷亭の首くくりのエピソード、寒月の俳劇に東風の新体詩。あげ出したら切りがない。

後半部分でいうと、最後に近く、えんえん30ページ以上(全体の7%)にわたって、寒月が「ヴァイオリンを習い出した顛末」を語る場面が圧巻だ。苦沙弥オールスターズの面々がそれぞれ個性的に茶々を入れる様子と、それに平気で受け流す寒月が面白い。

その日夜が更けてからヴァイオリンを購入するつもりの若き日の寒月が、日中何度寝ても日が落ちずに、同じように起きて柿を食べるシーンを繰り返す語りは、とてもシュールで現代的。アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』のエンドレスエイトのループを100年先取していると思った。

しかし、この小説に熱中していた18歳の自分は、ようやく後半部を読了するのが42年後になるとは想像もしていなかっただろう。